2013年09月30日23:00 【プレスリリース】
トレンド総研 今迎える、“ハイテク教育の黎明期” 電子黒板、タブレット端末、… ICT機器がもたらす、教育改革 目標は、2020年に「1人1台のタブレット端末の整備」
今年、教育現場においてタブレット端末やスマートフォンが活躍しているというニュースを、目にする機会が増えました。これらの情報通信技術(ICT)を活用した教育方法は、ICT教育と呼ばれ、近年、広く関心を集めています。また、政府でも、このICT教育の導入を推進していて、「2020年までに、全国の小・中学校で1人1台のタブレット端末の整備」という大きな目標を掲げています。さらに、高等教育における能動的な学修への参加を取り入れた“アクティブ・ラーニング”の重要性が増し、ICT教育に関する話題に今後注目が集まることは確実だと言えそうです。
そこで、トレンド総研(東京都渋谷区)では、こうしたICT教育が実現する次世代の教育を“ハイテク教育”とし、今を“ハイテク教育の黎明期”と考えました。この“ハイテク教育の黎明期”の実態と、今後の展望について探ります。
今回は、教育現場の生の声として、先生500名を対象にしたアンケート調査を実施しました。そして、ICT機器がどのように教育を変えていくのかについて、白鴎大学で教育学部長を務める、赤堀 侃司教授に取材を行いました。
さらに、教育現場に、電子黒板やタブレット型学習端末を提供している、シャープビジネスソリューション株式会社に取材を依頼。“ハイテク教育”の実現に向け、教育現場へのICT機器の導入状況における現状と、今後の展望についてお話をうかがいました。
■ レポート内容
1.先生500名に聞く、ハイテク教育に関する意識・実態調査
教育現場の実態とは!? 8割超の先生たちが望む、ICT機器による新しい教育“ハイテク教育”。
2.白鴎大学 教育学部長・赤堀教授に聞く、ICT教育のイマ・これから
教育工学の専門家、赤堀教授に、ICT教育のメリットと今後の課題についてうかがいました。
3.ICT機器導入の実態は!? シャープビジネスソリューション・永谷氏へ取材
シャープビジネスソリューションの教育ICT担当者・永谷 幸久氏にICT機器導入の実態についてうかがいました。
1. 先生500名に聞く、ハイテク教育に関する意識・実態調査
今回は、本レポートのテーマである、“ハイテク教育”について、教育の現場で働く先生たち500名に意見を聞きました。実際に教育の現場に立つ彼らに、教育現場へのICT機器の導入は、どのように受け止められているのでしょうか。その意識・実態について調べました。
◆ ICT機器が上位独占! 先生たちの7割以上が教育機器に関心あり!
はじめに、「ICT機器をはじめとする教育機器について、特に関心・興味がありますか?」と聞きました。すると、この質問に「ある」と答えた人は、70%。やはり、自分たちの日常業務に直結することもあり、その関心・興味は高いようです。
そこで、さらに、「特に関心・興味がある教育機器」を複数回答形式で聞きました。すると、上位3項目は、「パソコン」(54%)、「電子黒板」(49%)、「タブレット端末」(38%)と、ICT機器が並ぶ結果に。先生たちにとって、ICT機器への関心は非常に高いと言えそうです。また、ICT機器の認知率も調べたところ、その認知率は86%と、高い結果になりました。一方で、その導入率については、「自身の学校で導入している」という人は14%にとどまり、その関心や認知率に比べると、ずいぶん低いことが分かります。
◆ 高まるICT機器への期待、先生の81%が「“ハイテク教育”は実現する」
前段では、導入率はまだ低いICT機器ですが、先生たちの「利用したい」という意向は、非常に強いことが見受けられました。
それでは、先生たちは、ICT機器をどのように利用したいと思っているのでしょうか。「これらのICT機器を授業でどのように使いたいと思いますか?」と自由回答形式でたずねると、多様な意見があげられました。そこで、代表的な声を、以下にて紹介します。
「動画を使った授業をしたり、海外との交流に使ったりしたい。(東京都・短大・大学・大学院・男性34歳)」
「電子黒板とパソコンを組み合わせて、板書をし、それを保存して次に活かしたい。(兵庫県・高等学校・男性36歳)」
「理科・数学では動画を使った授業を、社会では歴史上の人物・建造物を写真で示したい。(山口県・中学校・男性40歳)」
「遠くが見えにくいので、弱視生徒にタブレット端末を持たせたい。(広島県・小学校・女性54歳)」
次に、こうしたICT機器の利用により、先生たちは、教育現場がどのように変わると思っているのかを調べました。「ICT機器の導入により、教育はどう変わると思いますか?」と複数回答形式で聞いたところ、「より分かりやすい授業ができる」(55%)、「学生・生徒の関心や興味が高まる」(49%)、「無駄な時間や手間を省くことができる」(46%)といった回答が多くあげられました。その他にも、多くのメリットがあげられ、「良くなると思わない」という人は、わずか5%にとどまりました。そのメリットは多岐にわたりますが、先生たちの多くは、ICT機器の導入により、授業、ひいては、教育が良くなると考えているようです。
そして、こうしたICT機器への期待は、その導入が実現する次世代の教育、“ハイテク教育”への期待につながります。この“ハイテク教育”について説明した後に、「今後、“ハイテク教育”は実現すると思いますか?」と聞いたところ、「思う」と答えた人は81%と、8割を上回りました。
2. 白鴎大学 教育学部長・赤堀教授に聞く、ICT教育のイマ・これから
このように、教育現場の先生たちからの期待が大きい、ICT機器や“ハイテク教育”ですが、そのメリットは一体どれ程のものなのでしょうか。白鴎大学教育学部長を務め、教育工学の専門家である赤堀教授に、ICT機器のメリットやその未来について、お話をうかがいました。
◆ 赤堀先生に聞く、ICT教育の5つのメリット
Q. ICT教育のメリットについて、教えてください。
ICT教育のメリットは沢山ありますが、今回は代表的なところで、5点、お話しします。
(1) 授業への関心の継続性が向上
現在の教育で用いられている、紙や黒板での教育で表現できるものは、文字と図表、それに写真くらいのものです。それに、紙面上の写真には不鮮明なものも多くあります。一方、電子黒板やタブレット端末は、音や動画、アニメーションなどの表現も可能なマルチメディア。画像もとても鮮明です。そのため、紙面上では単調になりがちな授業も、より印象的に表現することができます。
今までの授業では、30分程度しか集中できなかった生徒も、ICT教育では、より長く集中力を維持することができます。
(2) 学生・生徒の表現力の向上
大学で学生がプレゼンテーションをするのを見るとよく分かるのですが、少し前の時代の学生と比べて、現在の学生は、表現力が豊かになりました。最近は、プレゼンテーションをするために、画像や動画などを用いて、様々な工夫を行います。その結果が、こうした表現力の豊かさにつながっています。
前述の通り、ICT教育では、マルチメディアを活用するため、表現の選択肢は大きく広がります。様々な表現に触れ、また、自身で様々な表現方法を考えることで、学生・生徒たちの表現力は向上していくと考えられます。
(3) 授業の効率の向上
自己完結型の勉強方法を可能にしたり、繰り返し学習に強かったりするのも、ICT教育の特徴です。
計算ドリルの結果など、自身で打ち込んだ結果に対して、ICT機器が自動でその正誤を判別するということもできます。今の教室では、計算ドリルの採点をしてもらうために、先生の前に長い行列をなして待っているといったシーンも少なくないそうです。こうした時間の無駄も、ICT機器は、確実に取り除くことが可能です。その結果、一人ひとりの児童生徒と向き合う時間の増加につながります。
(4) 授業クオリティの平準化
例えば、字が下手な先生がいたとして、黒板に上手な字が書けないとしましょう。そんな時も、電子黒板を利用すれば、自身で字を書かずに授業を進めることも可能です。ICT機器を利用すれば、最低限度の授業のクオリティを担保することが可能です。
(5) 遠隔地との接続による、新たな授業スタイルの提供
ICT機器を利用すれば、遠く離れた土地ともつながることができます。外国の人とつながり、英語教育に活用するなんていう話はよく聞くでしょう。簡単な社会科見学だって行えます。小学校の教室と工場をつなげば、働く人の生の声を聞くことも可能です。
◆ 課題解決の先に見える、本当に効果的な“ハイテク教育”の実現
Q. ICT教育の現状と今後について、先生のお考えをお聞かせください。
今後、ICT教育の導入は、確実に進んでいくでしょう。それは確かです。しかし、そこには、いくつかの課題もあります。
代表的なものとしては、まずは、導入にかかるコストなどがあげられるでしょう。政府では、「1人1台のタブレット端末」といった目標を掲げていますが、それが突然実現するということはありません。まずは、学校として受け入れやすい電子黒板の導入が進み、その上で、学生・生徒たちの手元のタブレット端末の導入が進むでしょう。もし、仮にそれを早めることができるとすれば、各家庭での協力が必須です。例えば、自宅のICT機器を学校に持ち込むようになるなどは、わりと期待できるところではないでしょうか。
また、インフラについても考えなければなりません。学生・生徒の端末の充電環境はどうすればよいのか、校内のネットワーク環境はどのように構築するのか、その費用はどの程度のものなのか。これらの今後整備していかなければならない問題も、まだまだ山積みです。こうした問題を一つひとつ解決していった先に、はじめて“ハイテク教育”の実現はあるのだと思います。
また、実際にICT教育が導入されたとしても、それで終わりではありません。むしろ、その先に重要な問題があります。ICT機器も含め、こうしたツールについては、導入後、どのように利用していくのかという点が非常に重要です。はじめの内は、先生間の運用レベルの格差も大きいでしょう。それを高いレベルで、統一していかなければなりません。
上手な活用方法を積極的に共有し、取り入れていくことで、本当に効果的な“ハイテク教育”は実現します。
赤堀 侃司(あかほり かんじ)
-白鴎大学 教育学部長・教授-
財団法人コンピュータ教育開発センター 理事長。NPO教育テスト研究センター 理事。東京工業大学 名誉教授。
1944年7月21日生まれ。出身地は広島県呉市。
赤堀研究室Webサイト
URL:http://www.ak-lab.net/modules/pico2/
3. ICT機器導入の実態は!? シャープビジネスソリューション・永谷氏へ取材
今回の先生500名へのアンケートでは、教育現場の先生たちにおける、ICT機器への関心の高さと“ハイテク教育”への期待の大きさが明らかになりました。また、赤堀教授への取材では、ICT教育のメリットをご提示いただき、その上で、導入への課題についても教えていただきました。
それでは、このICT機器の導入というのはどの程度まで進んでいるのでしょうか。また、今後どのように進んでいくのでしょうか。今回は、電子黒板 BIG PAD と タブレット端末を連携した教育ソリューションを提供する、シャープビジネスソリューション株式会社に取材を依頼。販売推進部の教育ICT担当、永谷 幸久氏に、ICT機器導入の実態について、お話をうかがいました。
シャープビジネスソリューション株式会社
URL:http://www.sharp-sbs.co.jp/edu/
◆ 「まずは、電子黒板」から始まるICT導入、そのメリットとは・・・!?
Q. ICT機器導入の現状について教えてください。
知識基盤社会、グローバル化社会である21世紀に求められる教育のポイントは、「個に応じた学び」と「協働して新たな価値を生み出す学び」だと言われています。そして、これらの学びに対して、ICT機器は非常に有効に活用できます。
現在、最も積極的にICT機器の導入を進めているのは、小学校、中学校なのですが、これには、小・中学生において、この「協働して新たな価値を生み出す学び」が特に重要視されていることが、大きく影響しているようです。ICT機器によるインタラクティブな情報共有は、自分の考えを伝える機会や他者の考えに触れる機会を創出します。また、その範囲は、クラス、学年、学校、地域といった一定の枠組みに捕らわれません。望めば、いくらでも広いつながりの中で、協働と創出を生むことができるのです。
こうした教育理念に基づき、徐々に進んでいるICT機器の導入。しかし、諸外国では、「1人1台の情報端末」を国策として実施しているところも少なくありませんが、予算的な兼ね合いから、日本では、急激な変化はなかなか難しいのが現状です。導入時には、「まずは、電子黒板から」というケースが多いようです。しかし、それでも、そのメリットは非常に大きいという現場の声を聞いています。
◆ 電子黒板の3つのメリットを紹介
Q. 電子黒板のメリットについて教えてください。
電子黒板の導入のメリットとして、大きなところで3点紹介しましょう。
はじめに、1点目としては、「子供たちの目線を上げる授業ができる」ことにあります。机に目線を落とす、メモをとるだけの授業から脱却することで、子供たちの集中力は向上します。また、自ら考えるという点でも、子供たちに授業への参画を促すことができます。
次に、「ビジュアル面で分かりやすい授業ができる」というメリットがあげられます。理科にしろ、社会にしろ、テキストだけの授業では、なかなか実物の色や質感を伝えることができません。現在のモニター一体型の電子黒板の映像は、非常にきれいなものになっています。これにより、子供たちに、より“本物の色”や“本物の質感”に近いものを再現してあげることが可能です。
最後に3点目として、「情報を共有することで、学びあう授業ができる」という点があげられます。従来の授業では、意見を発表するにも、限られた時間の中で多くの子供たちに意見を聞くことは難しかったというのが実情です。しかし、電子黒板に意見を一覧表示すれば、より多くの考え方を知ることができるようになります。また、自分の考えと比較したり、クラス全体の考えを知ることで、より適した考えをお互いに求めたりというような、いわゆる協働的な学びが実現できます。さらに、自分の考えを発表するツールとしても活用できるので、表現力やコミュニケーション力の育成にも役立ちます。
◆ 2020年の目標「1人1台のタブレット端末」、実現のための課題とは!?
Q. ICT機器導入に向けて、今後、どのようなことに力を入れていくべきだと思いますか。
現在、国の掲げる「2020年までに全国の小・中学校で1人1台のタブレット端末の整備」という目標に向けて、全国で様々な取り組みが行われています。その中で、ICT教育が本当に学習に効果があるのかという検証も行っていて、確かに、これも重要ではありますが、これから本当に重要になるのは、“手段としてどのように活用すれば”、ICT教育の効果を最大限に引き出せるかという検証です。
そして、そのためには、グッド・プラクティス(優れた取り組み、GP)の展開、共有が不可欠であると思います。きちんとした教育手法を検証するとともに、良い事例をどんどん横展開していくことが求められていると感じています。
現在、国、政府も、ICT教育の普及に向けて、力を入れて取り組んでいます。その一例が、総務省の「フューチャースクール推進事業」や文部科学省の「学びのイノベーション事業」です。申請のあった実証校において、国の支援でICT機器を配備。その使用環境が提供されます。そして、そこでICT教育の実証が行われてきました。2014年度には40地域、さらには3年間で100地域に、こうした教育ICT環境の整備を広げるという目標も掲げられており、全国への普及・促進の足掛かりとしたい考えです。
ここでは、次々と、グッド・プラクティスが生まれていくのでしょう。これを、いかに共有していくかが、今後のICT教育の普及、ひいては、それが実現する次世代の教育、“ハイテク教育”の実現のタイミングを決めると思います。